Page 18 - スライド 1
P. 18

西の湖ヨシ灯り展とクラフト系市民フト系市民
                                     西の湖ヨシ灯り展とクラ

                                                                                         和光大学  長尾  洋子


               京都に住む知人の案内で初めて近江八幡を訪れてから、15 年以上が経ちました。当初は
             一旅行者にすぎませんでしたが、いろんな魅力がぎゅっと詰まったこの地に和光大学(東京・

             町田市)の学生をフィールドワークに連れて来るようになりました。ここ数年は西の湖周辺
             の環境活動について文化的な側面から調査研究しています。
               ヨシ灯り制作ワークショップ(WS)参加者に対するアンケートで意外だったのは「もの
             づくりが好きで、その楽しさを味わいたいから」という参加理由がとても多かったことです。

             学校などでは環境学習やふるさと学習の一環としてヨシ灯り制作が取り入れられています
             が、自主的な参加者は「自分の手でものを作る楽しさ」に魅了されているようです。
               2020年、フィンランドの伝統装飾ヒンメリの手法を用いた作品がヨシ灯り展に登場し、
             注目を浴びました。麦わらを用い、信仰と結びついた生活文化として伝えられてきたヒンメ

             リですが、現在は愛好者や作家が多彩な作品を創っています。ヨシの茎は麦わらと同様、中
             が空洞です。そこに糸を通して幾何学模様のモチーフを作りつなげていくのです。風にゆら
             ぐヒンメリは光があたると影の効果も相まって、独特の美しさを放ちます。大型のヨシ灯り
             にヒンメリを取り入れる趣向も見かけるようになりました。「ヨシで作る楽しさ」が北欧の

             伝統工芸(クラフト)の技術や美とつながったのです。
               ヒンメリやヨシ灯りのようなクラフトは、自然素材を用いて手づくりする点で環境・生活・
             文化の交わるところにあります。そこに何らかの意義や喜びを見出して活動を行ったり、参
             加したりする人々を「クラフト系市民」と呼ぶことができるのではないでしょうか。クラフ

             ト(craft)には「手作業でつくる」という意味もあります。ものだけでなく、活動を作り、
             場を作り、人とつながり、環境への新しい向かい方を形作る――そう考えていくと、クラフ
             ト系市民は未来を手づくりする存在でもあるように思います。
               2021 年、ヨシ灯り制作 WS で草津市から来た女性と知り合いました。ヨシ灯り展初参

             加とのことでしたが、なんと翌年の夏、草津市内で 80 組以上が参加する WS を行い、地元
                                                       のイベントに合わせてヨシランプ(灯り)展を開催し
                                                       たのです。日常的にも、伝統的な手仕事や環境に着目
                                                       した小規模な WS を運営して発信。デザイン性にこ

                                                       だわったものづくりの小さな集まりは、彼女が関わ
                                                       る地域活動の場に機動力や厚み、個性を与えている
                                                       ように思います。ここにもクラフト系市民の姿があ
                                                       りました。

                                                         私にとってヨシ灯り展とは、作品だけでなく、手づ
                                                       くりする未来の可能性を見せてくれる場所でもある
             のです。


                   (ヨシ灯り展終了後、安土コミセンに飾られたヒンメリ作品)









                                                            17
   13   14   15   16   17   18   19   20   21   22   23